★★★★/2021.2.6/WOWOW録画
『お前が見ているのはほんの一瞬光が当たった所だけ。人を見るときはその裏側。影の一番濃い所を見ろ』
という松田龍平のセリフに本作は象徴されると思います。とにかくなんというか、映画の仕上がりは抜群にいいのではないかと思いますが、理解するのに難しいです。この私が珍しく原作本を先に読んで、1年以上経っての鑑賞でしたがそれでも難しいです。原作も難しいからでしょう。
私が読んだときは、原作本のカバーはすでに映画のポスターと同じビジュアルが印刷されておりました。1時間もかけずに読み終わるかと思うほどの短さでしたが、その文体は極めて美しく、そして内容は極めて難しい、と言った感じです。あ、言い忘れてしまいましたが、本作は芥川賞を受賞しており、かつ、第122回文學界新人賞を受賞しての著者(沼田真佑)のデビュー作なのだそうです。文學界といえば最初のカレシが作家志望でデビューは文學界の新人賞を狙いたい、と宣ってらっしゃいましたがどうしていることやら。
ま、それはさておき、、、
主題、というか、主旨というか、それが伝わりにくいお話だと思います。映画ではそれをそのまま引き継ぐようにできあがっていますが、描写は丁寧で原作を大きく変更せずに整理して描かれます。耳障りな生活の中の音が印象的なつくりです。岩手県の自然の描写が「これでもか」という感じに全くならずに自然に、自然を見せてくれます。あ、そうそう、テレビ岩手開局50周年記念作品、でもあるようですよ。キャストがとにかく骨太で下手な人はいません(上から目線で大変失礼ながら)。
珍しく丁寧に説明させていただきました。もうこのぐらいでいいかもしれません。
と、いうことで、とにかく綾野剛(主役)がよく脱ぎます。パンイチでベランダのジャスミンに水をやるシーンの正面からのカットには変な声が出そうになりました。いや、出たかも知れん。でもこれらの脱ぐシーンにも意味があるのでしょうね。脱いでいると人が来る、というのもこの映画の不思議のひとつ。そして人が来るとスウェットを履いて応対するという具合です。ちなみに、パンツはカルバン・クラインのブリーフです。私にはなぜかこれがスッと入ってきまして。というのも、昔、出張で福岡に行った時に、夜の接待(私がする側)で中洲のランパブ(懐かしいでしょ?)へ行き、私は入り口で帰ろうとしたら、お店の従業員の男性(お客様をキャッチする役割の方ですね)がこう言いました。
『お姉さんも寄っていけばいいよ。僕が相手するから。ちなみに今日はカルバン・クライン履いてるし。』
まあ、それもさておき、映画に話を戻します。埼玉から岩手に転勤してきた、真面目でちょっとおセンチなゲイの主人公が、職場で唯一心を許し、思いを寄せるようになる相手(松田龍平)ができます。しかし彼は突然会社をやめたと思ったら、しばらくしてまた突然主人公の前に現れて新しい職場の話をして帰って行き、またちょくちょく主人公の前に現れるようになるのですが、そこに東日本大震災がやってきて彼の消息が全くわからなくなり、彼の裏の顔が周辺の人や家族から聞かされるようになります。
簡単に言いましたが、主人公の綾野さんの演技は見事です。好きだから贔屓目に見てますが、でも間違ってないと思います。高橋一生くんとか中村倫也(出てるんですけどね、本作に)くんに並ぶ俳優だと思います。片や松田龍平くんですが、演技はやっぱり見事です。2人ともあまり抑揚のない演技を静かに務めるのはすごいでしょう。でもね、私は松田くんは好感は持てないんですよね。顔が嫌いなのかもね。
主人公の日常は続いて行って、新しい恋人もできて、おそらく職場もまた本社?に戻っているのかもしれません。そういう淡々とした描写でこの映画は終わります。でも、そんな主人公の心の中には何年経ってもあの彼がいるのかもしれません、という匂いも少しします。これは一人の男性の人生におけるほんの一時の出来事だったんだと思います。
映画が好きな人、見た後感想とか書いたりする人、考えるの好きな人、にはおすすめです。お時間のある時に。